日本の病院は、国民皆保険制度のもと、廉価で高い質の医療を提供してきました。医療は仁術であり、利益を目的として運営するのはおかしいと、医療従事者も考えていたし、国民もそのように考えていました。国が元気で勢いのある時代では、医療は他の事業とは明確に峻別された特殊な仕事であると信じられていたからです。しかし、実際のところ民間病院は、一般の企業と同じように利益を得て運営されなければ、納税や職員の処遇改善、設備投資を行うことができないことは明らかであり、裏側では必死で利益を出すマネジメントが行われていました。
人の行動や経営の在り方は、すでに産業革命以来多くの企業が実践をしてきており、その手法を医療に導入すれば、成果は挙がったはずです。
しかし、日本の病院は多くが医師により運営されており、海外のように経営のプロフェッショナルが運営するものではありません(写真はマネジメントに長けているバンコクグループのサムティベート病院と連携するヤンゴンのパラミ病院)。医学部に組織マネジメントを行える医師を育成するためのカリキュラムがありません。優秀な学生が医学部を目指しているし、医師が将来大学や、医療機関、研究機関で組織運営を行うリーダーとなることが明らかであるにも関わらずです。
これはとても特殊な環境であり、国民皆保険制度のなかで診療報酬のルールに従って運営していれば、収益が得られたことにより、その必要性がなかったということも背景にあります。もちろん、医師は医療に特化し、マネジメントは海外のように経営に長けたプロフェッショナルが病院を運営するのであればそれでもよいのでしょうが、そのような仕組みがないなかでの現状には腑に落ちないものがあります。
実はプライマリーは、医師や看護師等の医療従事者がいれば成り立つものであり、そこに組織マネジメントは必要ありません。
しかし、病院ができて、さまざまな職種の雇用や彼らの管理、設備への投資、与えられた診療報酬を活用するため限られた経営資源で最大限の成果を挙げる戦略立案やその実践、他の医療機関の連携等の管理を行わなければならないなかで、経営のフレームワークをもたない病院は、うまく運営できないことは明らかです。
日本の財政がひっ迫し、社会保障費抑制のなかで医療費の傾斜配分や削減が行われるようになると、より一層マネジメントの必要性は増してきます。これは民間病院ひとりの出来事ではなく、7千億円以上の一般会計繰入により運営されている自治体病院にも、いえることだといわれています。
そこで病院は企業経営を学ばなければならないと、ながく指摘されてきました。多くの優れた病院はこぞって企業会計や企業経営のロジックを導入し、病院なりにアレンジしながらよい成果を挙げています。ただ、これらのながれはまだ病院の一部のものでしかなく、全体にまで昇華されたものではありません。今後人口が減り少子高齢化が進むとともに税収が減り、社会保障費が抑制される日本。
増税が進み、診療報酬が引き下げられ、受療率が下がる環境の下、地域包括ケアシステムの中で、病院は従来とは異なる医療を提供する事が期待されています。
職員が力を発揮できる仕組みやマネジメントが行われなければ医療を守る事は出来ません。日本の医療は、いよいよ正念場に差し掛かったという事だと考えています。
どのような行動をとる病院が残るのか、病院マネジメントに関する議論をこれから当ブログで、頻回に取り上げていこうと思います。